モンティニーの狼男爵 / 佐藤亜紀
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佐藤亜紀の「鏡の影」の次の、1995年の作品である。この後に傑作「1809」「天使」と続くので、やや陰が薄い(実際既に廃刊で電子書籍化もされていない)が、やっぱりその筆力は侮れないし、彼女らしい饒舌ぶりはますます脂がのっている感さえある。
よくある変身譚でありながら、引っ張る引っ張る。「ルー・ガルー」である大人しくて奥様を寝取られる情けない主人公の男爵が完全に変身するのは中盤もだいぶ過ぎてから。そこからはもうグイグイ一直線に引っ張っていくが、それまでの伏線のはりかたが実に上手い。まるで饒舌の草叢の中に巧妙に隠された罠のようだ。
だから読み終えて、もう一度第一章を読み返してから満足感はやって来るだろう。数多ある欧州の童話や人狼譚を佐藤亜紀流小説に仕立て上げた、面白い話だった。
『フランス革命前夜、パリからはなれた田舎町モンティニー。ひとりの男爵が、妻を寝とられ、狼に変身する。涙と笑いなしには読めない、異色滑稽転身譚。(AMAZON解説より)』
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