アンジェリーナ 佐野元春と10の短編 / 小川洋子
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以前「本が好き!」で踊る猫さんのレビューを絶賛したことがある小川洋子の短編集。でも個人的にはこの本はMOTO the Lionこと佐野元春の大ファンの私としては逆にレビューし辛い。小川洋子らしい小説もあるのだが、全体としてMOTOの音楽に比べると大して面白くないし、シンクロしきれていない気がするのだな。
「アンジェリーナ」
残念ながら佐野元春の詩には遠く及ばない。主人公が化学会社でバクテリアの研究をしてるからって、自分のマンションで細菌培養してるって、どうよ。
それにしても、モトの詩を活字であらためて眺めてみると、凄いなと思う。彼はやはり詩人として天才。
「バルセロナの夜」
ちょっといい。小川洋子ならではの世界。「愛してる気持ちは いつも変わらない」が最後にうまくフィットしている。
「彼女はデリケート」
う~ん、曲調と内容が今一つマッチしていないような。もっとポップにしても良かった気がする。
「誰かが君のドアを叩いている」
小川洋子らしい小説。客観的にはちゃんと存在している左足を「失った」女がある温室で暮らすようになる。温室管理人の言葉に心の平穏を取り戻しはするが、次いで右足、右手と体の記憶を失っていく。管理人は
「君がもし、身体の記憶を全部失ったとしても、僕はやっぱり、君の元を訪ねる。君のドアを叩くよ。」
と、言った。これがまあ、一番いいかな?
「奇妙な日々」
不条理系。村上春樹的な。
「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」
とってつけたような無理矢理なストーリー。
「また明日・・・」
これは小川洋子的不条理系でいい。「また明日・・・」という、TV番組の終了を告げる声に恋した僕は、その声を提供しているみみずくクラブという会社に出かけていき、一週間の約束でその声のピアスをつけてもらうが。。。
「クリスマス・タイム・イン・ブルー」
飛行機の中で恋人に宛ててクリスマスの思い出二つを書いている僕。これもなんか村上春樹的。
「ガラスのジェネレーション」
高校時代の恋人に偶然再会した男女の会話。何ということはない話だが、フラミンゴの出し方無理ありすぎ。
「情けない週末」
本当にMOTOのコンサートから帰るシーンから始まる。面倒くさい女、あまり面白くない話。
解説は江國香織さんだ。これはいい。
『アンジェリーナ、バルセロナの夜、彼女はデリケート…時が過ぎようと、いつも聞こえ続ける歌がある--。佐野元春の代表曲にのせて、小川洋子がひとすじの思いを胸に奏でる、繊細で無垢で愛しい恋物語、十編。(AMAZON解説より)』