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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

展覧会の絵 / イリーナ・メジューエワ

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   先日紹介したメジューエワさん自身の著書で解説されていた、ショパンの「別れの曲」とムソルグスキーの「展覧会の絵」が入っているライブアルバム。彼女の大好きな魚津の新川文化ホールでのライブ録音で時系列で言えばこの作品が本邦での初ライブアルバムとなる。彼女のライブはそのまんま収録するのでよく咳などの雑音が入るが、それが気にならないほどの熱を帯びた演奏が聴けるし、スタインウェイの響きがとてもよく分かる。

 

  彼女は暗譜している曲でも必ず譜面を見て演奏する、いわば譜面原理主義だが、それだけに自身の著書の解説を読みながら聴くと、なるほどと首肯させられるところが多々ある。

  例えば「別れの曲」がエチュードであることはよく知られているが、では、どのような練習になるのかはあまり聞いたことがない。彼女の解説によると、この曲はポリフォニールバートの練習になり、それにより奏者の表現力が試されるそうだ。ショパンは結構細かくテンポや表現について指示をしていて、それを忠実に守りながらルバートすることは、それは難しい事だろう。特に彼女の言う事にはショパンは左手はリズムを守りつつ右手でルバートすることを求めているという。それを忠実に守って演奏するとどうなるか。そのお手本がこのアルバムの「別れの曲」なんだと思う。

 

  ロシア人の血が騒ぐ「展覧会の絵」はゆったりと雄大に演奏している。ピアノを思いきり響かせる演奏で、音の強弱のメリハリが凄い。

  一聴しただけでは私がこの曲の評価基準としているキーシンの方がきっちりとした演奏に聴こえるのだが、何度も本を読みながら聴いていると、これが正しいのかなと思えてくる。彼女の推薦するアファナシエフに似た演奏ではないかと思う。

 

  その他のショパンも聴きどころ一杯だが、普段あまり耳にしないメトレルの「おとぎ話(Sonata in F major op26-3)もいい。メジューエワさんが好きな作曲家で、日本人にも知ってもらいたいとよく演奏されている。

 

 

【曲目】
ショパン
 ポロネーズ 第1番 嬰ハ短調 作品26の1
 エチュード 変イ長調 作品25の1《エオリアンハープ》
 エチュード ホ長調 作品10の3《別れの曲》
 エチュード ハ短調 作品10の12《革命》
〈ムソルグスキ〉ー
 展覧会の絵
メトネル
 おとぎ話 へ短調 作品26の3
ショパン
 プレリュード ロ長調 作品28の1
 プレリュード イ長調 作品28の7

2004年12月、新川文化ホール(富山県魚津市)で行われたリサイタルを収録したもので、ショパンムソルグスキーを中心としたプログラムです。注目すべきはムソルグスキーの《展覧会の絵》。
深いスコアの読みと豊かなイマジネーションから生み出される新鮮な解釈によってこの傑作に新たな光をあてることに成功しています。巨大なスケール感とライヴならではのテンションの高さも圧倒的。
アンコールで弾かれたメトネルショパンもコンサートの雰囲気をよく伝えています。
なお、ブックレットにイリーナ本人のエッセイを収録しているのも見逃せません。

録音:2004年12月2日 新川文化ホール(富山県魚津市AMAZON解説より)