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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

書籍

武道館 / 朝井リョウ

⭐︎⭐︎⭐︎ 朝井リョウの作品をボツボツと読み進めているが、今回はこの「武道館」。AKB48が隆盛を極めた時代の女性アイドルグループの成立から「武道館」公演を成功させるまでを、いつものようにちょっと斜に構えるのではなく、もうど真ん中どストライクを狙っ…

アノニマス・コール / 薬丸岳

⭐︎ 本が好き!で塩味提督が褒めておられた本。ブックオフ で見かけたので買って読んでみた。よくできた和製ハードボイルド風味誘拐ミステリではあるのだが、私には合わないなあ、というのが率直な感想。 いきなり不祥事で警察を辞め離婚もしたらしい中年男が…

EXHALATION / Ted Chiang

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 「The Story of Your Life(あなたの人生の物語)」でアメリカSF界を席巻したTed Chiang(テッド・チャン)待望の新刊「EXHALATION(息吹)」である。彼の作品はハイレベルのハードSFであり、訳なしで読むのは相当難しいと前作で感じたので、今回は邦…

黄金列車 / 佐藤亜紀

⭐︎⭐︎⭐︎ 2020年初のブックレビューである。思い起こせば、去年の今頃は佐藤亜紀の作品群に没頭していた。その最新刊を年初に持ってこれるのは大変うれしいことで、満を持して読んだ。 「吸血鬼」でヨーロッパの落日を描き切り、一転して「スウィングしなけり…

とるとだす / 畠中恵

⭐︎⭐︎⭐︎ 畠中恵さんのしゃばけシリーズ文庫版最新刊の第16巻。今回も短編五篇の構成。若だんなの父大店長崎屋の主人藤兵衛が倒れたという設定で、一太郎の成長を促す回となっている。藤兵衛の倒れ方と最終的な治り方にかなり無理があるが、それぞれの作品はよ…

失われた時を求めて 6 / マルセル・プルースト

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 光文社古典新釈文庫版「失われた時を求めて」は2019年末現在六冊が刊行されており、現時点での最終巻となる。本巻には第三篇「ゲルマントのほうへ(I)」の後半と「同(II)」の前半が収められている。 三冊(予定)に分かれたちょうどつなぎとなる巻…

失われた時を求めて 5 / マルセル・プルースト

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ フランス文学の傑作にして長大な「失われた時を求めて」も第三篇「ゲルマントのほうへ」に入る。第五巻はその「I」で、これまでもたびたび憧れの人として顔を見せていたゲルマント公爵夫人への恋心を主人公が募らせていく模様が語られる。 なにせマ…

失われた時を求めて 4 〜第二篇「花咲く乙女たちのかげに II」 / マルセル・プルースト

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ マルセル・プルースト畢生の大作「失われた時を求めて」、艱難辛苦しながらも読み進めていき、気がつけば早や第四巻。「花咲く乙女たちのかげに」も第二部「 土地の名・土地」に移る。「土地の名・名」が「私」の空想でしかなかったのに対応し、つ…

失われた時を求めて 3 第二篇・花咲く乙女たちのかげに(1) / マルセル・プルースト

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ マルセル・プルースト畢生の大作「失われた時を求めて」も第三巻に入り、第二篇「花咲く乙女たちのかげに」が始まる。本巻には第一部「スワン夫人のまわりで」が収録されている。 まだ「花咲く乙女たち」は登場せず、第一部の「土地と名 ー名ー」の…

失われた時を求めて フランスコミック版 スワン家の方へ / プルースト、ステファヌ・ウエ、中条省平

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 「数多の挫折者」を出してきたことで有名なマルセル・プルーストの「失われた時を求めて」、それも3000Pの超大作ながら初めの数十Pで大抵の人は脱落するという大変な「20世紀文学の金字塔」。 前回レビューした「第一篇 スワン家の方へ I 第一部 コ…

失われた時を求めて 1 〜第一篇 「スワン家の方へ I 」 〜 (光文社古典新訳文庫) / プルースト、高遠弘美翻訳

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 読書好きなら誰もがその名前は知っている「A la recherche du temps perdu 失われた時を求めて」、フランスの作家マルセル・プルーストが1922年に亡くなるまでの約15年間をこの一作のためだけに費やし、原稿3000枚以上、日本の400字詰め原稿用紙10,…

絵を見る技術 名画の構造を読み解く / 秋田麻早子

⭐︎⭐︎⭐︎ 絵画を見るのが好きで、よく美術展に行く。始まりは学生時代に美術教科書で見たモネの「日の出 ー印象ー」だったが、そこから印象派〜ポスト印象派〜キュビズム〜バウハウス〜モダンアート等々と派生していった。 逆に時代を遡るのは苦手で、西洋のい…

小説 天気の子 / 新海誠

⭐︎⭐︎⭐︎ 新海誠の最新映画「天気の子」の小説版。監督自身によるノベライズ版なので、基本的には映画と同じもの。よってこの小説を映画と切り離して単体で読まれる方はまずおられないと思うので、「もう映画は観ている」という前提でレビューを進めていきたい…

しゃばけ漫画 佐助の巻 / 畠中恵、萩尾望都、他

⭐︎⭐︎⭐︎ しゃばけシリーズの文庫本落穂拾い、人気漫画家によるトリビュート「しゃばけ漫画」、仁吉の巻についで今回は佐助の巻。ついに真打モー様の登場! 原作:畠中恵 キャラクターイメージ原案:柴田ゆう 漫画: 萩尾望都: うそうそ 箱根の湯治についての…

しゃばけ漫画 仁吉の巻 / 畠中恵、高橋留美子、他

⭐︎⭐︎⭐︎ しゃばけシリーズの文庫本落穂拾い。2013年、「小説新潮」で人気漫画家によるトリビュート漫画の連載が開始され、翌年それらを集めたアンソロジー集がパンチコミックスから刊行され、2016年には潮文庫から「しゃばけ漫画 仁吉の巻」「しゃばけ漫画 佐…

スペードの3 / 朝井リョウ

⭐︎⭐︎⭐︎ 朝井リョウを読んでいくシリーズ、今回は「スペードの3」を選んでみた。 トランプゲームの「大富豪」に擬えた「スペードの3」「ハートの2」「ダイヤのエース」の三章からなり、それぞれの仕掛けに工夫を凝らすとともに、三編がうまくリンクして一…

異邦人(いりびと) / 原田マハ

⭐︎⭐︎ この小説を個人的感想を抜きにして評価すれば良くできた小説である、と思う。 プロットはよく練られており、東京と京都に離れてしまった夫婦の感情のすれ違いや行動の行き違いが傷口を徐々に広げていく様、女性同士の交情と最後の種明かし、画廊経営の…

おおあたり / 畠中恵

⭐︎⭐︎ しゃばけシリーズもついに第15弾、文庫本で出ている限りではこれで最終、一つの区切りとなる。今回は「おおあたり」がテーマだが、統一感には乏しく、残念ながら大当たりではない。とはいえ、もう職人技の域、安定したクオリティではあるので、しゃばけ…

なりたい / 畠中恵

⭐︎⭐︎⭐︎ しゃばけシリーズ第14弾。今回は「〜になりたい」と言う題名が五つ並んでいる。ことの始まりは、畠中さんは断言はしていないが珍しくも大妖の手代二人仁吉と佐助の失策である。 若だんなが恒例によって寝こむ少し前に、近所で似た年頃の若者が亡くな…

ずえずえ / 畠中恵

⭐︎⭐︎⭐︎ しゃばけシリーズ、第13巻。今回は栄吉や若だんなの嫁取り騒動に絡めて、若だんなの将来についての展望が語られる。妖と人間との時間感覚の差異はこれまで何度も触れられきて、特に「ちんぷんかん」収録の「はるがいくよ」などはシリーズ中屈指の傑作…

たぶんねこ / 畠中恵

⭐︎⭐︎⭐︎ しゃばけシリーズ第12弾。外伝から再び本伝に戻って短編五編が並ぶが、今回は「序」がついている。奇跡的に二月ひと月病にかからなかった若だんな、喜んだ手代二人は若だんなに五つのことを約束させる。 一 半年間仕事をしない 二 半年間恋はお預け …

えどさがし / 畠中恵

⭐︎⭐︎⭐︎ しゃばけシリーズの番外編。 「500年の判じ絵」 主人公は佐助(犬神)。ひたすら旅を続ける佐助、今は江戸へ向かう途中で三島宿にいる。街道脇の茶屋に貼られていた判じ絵がどうも妖の佐助宛てに書かれたようで、居合わせた化け狐の朝太と謎解きを始…

ひなこまち / 畠中恵

⭐︎⭐︎⭐︎ しゃばけシリーズ、第11巻。今回も五編からなるが、全体を通してのテーマは「若だんなの人助け」、そして裏テーマは「ゆんでめて」の後始末。 第一話「ろくでなしの船箪笥」冒頭で、若だんながある日、一つの木札と出会うところから話は始まる。それ…

堕落論 / 坂口安吾

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 「本が好き!」の企画に参加したのでこちらにも残しておく。 新潮文庫版「堕落論」には17編の評論随筆が収録されており、解説は柄谷行人氏が書いておられる。講演録と思われる作品もあるが、ほとんどは安吾らしい「無頼派」な文章で彼一流の美学が…

やなりいなり / 畠中恵

⭐️⭐️⭐️ しゃばけシリーズも第十巻、例によって五つの作品が並ぶが、今回の特徴は「料理」。しゃばけシリーズのお楽しみである江戸時代の料理、それを今回は各作品に活かし、レシピを冒頭に掲げている。さらに解説では東京大塚の江戸前料理店経営の料理家福田…

小鳥たち / 山尾悠子、中山多理

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 山尾悠子待望の新刊である。今回は人形作家の中川多理さんとのコラボレーションで、作品数は掌編三編と少ないが、中川さんの「小鳥たち」や「老大公妃」の人形の写真が多数挿入され、「怖いけれど美しい」という共通する個性が共鳴し合い、とても素…

クジラアタマの王様 / 伊坂幸太郎

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 伊坂幸太郎の新作書き下ろし長編。彼の新作といえば「シーソー・モンスター」をレビューしたばかりだが、あちらは螺旋プロジェクトの一環で、こちらは単独作品。伊坂さんこの頃ハイペース。そういえば「シーソーモンスター」の「アイムマイマイ」と…

しゃばけ読本 / 畠中恵

⭐︎⭐︎⭐︎ 畠中恵さんのしゃばけシリーズ、ここでちょっと一休み。ちょうど「ゆんでめて」まで来たところで出た解説本「しゃばけ読本」をご紹介。「しゃばけ」シリーズの解説や畠中さんの創作の裏側を覗けるのもさることながら、いつもシリーズの表紙を飾るかわ…

椿宿の辺りに / 梨木香歩

⭐︎⭐︎⭐︎ 梨木香歩さん五年ぶりの新作は「f植物園の巣穴」の続編。前半のまったりしたユーモアは楽しめたが、後半「非常な不幸に見舞われている佐田家の子孫」の原因を実家と椿宿全体の治水の話に結びつけていくあたりは牽強付会過ぎて、というか「異界譚ファ…

f植物園の巣穴 / 梨木香歩

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 新刊「椿宿の辺りに」がこの作品の続編だそうで、先にこちらをレビューしておこう。2008年の作品で、同傾向の作品である「家守奇譚」(2004)と続編の「冬虫夏草」(2013)の間に書かれており、また、彼女の最高傑作との呼び声も高い「沼地のある森…