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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

日本文学

堕落論 / 坂口安吾

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 「本が好き!」の企画に参加したのでこちらにも残しておく。 新潮文庫版「堕落論」には17編の評論随筆が収録されており、解説は柄谷行人氏が書いておられる。講演録と思われる作品もあるが、ほとんどは安吾らしい「無頼派」な文章で彼一流の美学が…

やなりいなり / 畠中恵

⭐️⭐️⭐️ しゃばけシリーズも第十巻、例によって五つの作品が並ぶが、今回の特徴は「料理」。しゃばけシリーズのお楽しみである江戸時代の料理、それを今回は各作品に活かし、レシピを冒頭に掲げている。さらに解説では東京大塚の江戸前料理店経営の料理家福田…

クジラアタマの王様 / 伊坂幸太郎

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 伊坂幸太郎の新作書き下ろし長編。彼の新作といえば「シーソー・モンスター」をレビューしたばかりだが、あちらは螺旋プロジェクトの一環で、こちらは単独作品。伊坂さんこの頃ハイペース。そういえば「シーソーモンスター」の「アイムマイマイ」と…

しゃばけ読本 / 畠中恵

⭐︎⭐︎⭐︎ 畠中恵さんのしゃばけシリーズ、ここでちょっと一休み。ちょうど「ゆんでめて」まで来たところで出た解説本「しゃばけ読本」をご紹介。「しゃばけ」シリーズの解説や畠中さんの創作の裏側を覗けるのもさることながら、いつもシリーズの表紙を飾るかわ…

椿宿の辺りに / 梨木香歩

⭐︎⭐︎⭐︎ 梨木香歩さん五年ぶりの新作は「f植物園の巣穴」の続編。前半のまったりしたユーモアは楽しめたが、後半「非常な不幸に見舞われている佐田家の子孫」の原因を実家と椿宿全体の治水の話に結びつけていくあたりは牽強付会過ぎて、というか「異界譚ファ…

f植物園の巣穴 / 梨木香歩

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 新刊「椿宿の辺りに」がこの作品の続編だそうで、先にこちらをレビューしておこう。2008年の作品で、同傾向の作品である「家守奇譚」(2004)と続編の「冬虫夏草」(2013)の間に書かれており、また、彼女の最高傑作との呼び声も高い「沼地のある森…

ゆんでめて / 畠中恵

⭐️⭐️⭐️⭐︎ しゃばけシリーズも九作目に入る。短編五本で一冊というのがもう恒例となっているが、毎回色々と趣向を凝らせ飽きさせないように努力されているのは立派。 今回は離れの火事で行方不明になってしまった屏風のぞきをめぐり、四年後から始めて、一年…

天使も怪物も眠る夜 / 吉田篤弘

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 螺旋プロジェクトもいよいよ最終刊、八冊目となる未来編。アンカーを託された作家はクラフト・エヴィング商會の吉田篤弘。作品名は「天使も怪物も眠る夜」。螺旋プロジェクトのルールである「海族」と「山族」の争いにアンカーとして終止符を打つこ…

ウナノハテノガタ / 大森兄弟

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 螺旋プロジェクト#7。このシリーズもいよいよあと二冊、今回は大森兄弟の「ウナノハテノガタ」。 楽園ウナノハテノガタを信仰する海の民「イソベリ」は、死を知らない。精霊を司る少年・オトガイだけは真実を知り、死を恐れ、激化する山の民「ヤ…

月人壮士 / 澤田瞳子

⭐️⭐️ 螺旋プロジェクトも六作目に入り、いよいよ古代編。題名は「つきひとおとこ」と読む。これについては最後に解説。気鋭の歴史作家(といっても初耳だが)、澤田瞳子さんの作品。 時代は奈良時代後半、主人公は聖武天皇。歴史の教科書的には東大寺を建立…

ころころろ / 畠中恵

⭐️⭐️⭐️ しゃばけシリーズ第八作。いつものように五編の短編が並んでいるが、今回はその全てを貫いて、若だんなの失明騒動を描いているところが面白い試み。 まず一作目の「はじめての」では、若だんな一太郎12歳の頃のほのかな初恋が描かれる。その初恋の少…

コイコワレ / 乾 ルカ

⭐️⭐️⭐️ 螺旋プロジェクト#5、ここから女性作家が二人続く。まずは乾ルカの「コイコワレ」。「蒼色の大地」の明治と「シーソーモンスター」の昭和後期の間を埋めるピースで昭和前期が舞台。具体的には太平洋戦争末期の1944-5年の出来事を海族山族二人の少…

いっちばん / 畠中恵

⭐️⭐️⭐️ しゃばけシリーズ第七作。安定の短編五編構成。にぎやかに妖勢ぞろいで始まるが、後半はちょっと退屈、このシリーズのお約束の設定に沿った話でまあまあ予定調和の世界。 兄の松之助が長崎屋を出て所帯を持ち、親友の栄吉は菓子作りの修業へ。普段か…

蒼色の大地 / 薬丸 岳

⭐️⭐️ 螺旋プロジェクト第四作目は薬丸岳の「蒼色の大地」。天野純希の「もののふの国」の1000年近くに渡る武士の時代についで、今回は明治が舞台。 薬丸岳の新境地にして新たな代表作。 壮大なスケールで贈るエンタメ巨編! 一九世紀末。かつて幼なじみであっ…

ちんぷんかん / 畠中恵

⭐️⭐️⭐️ しゃばけシリーズ第六作。いきなり若だんなが冥土送りになりびっくりさせるが、全体を通じては、貰い火で焼け落ちた長崎屋の新築と腹違いの兄松之助の縁談の成り行きが語られる。 「私ったら、死んじゃったのかしらねえ」長崎屋が大火事に巻き込まれ…

何様 / 朝井リョウ

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 先日紹介した、まだ何者でもない大学生たちの就活模様を描いて秀逸だった「何者」のアナザーストーリー集。六作品それぞれによく出来ており、彼得意の思わせぶりな題名と最後のツイストもきっちり効いていて、朝井リョウって本当にこういうの上手い…

何者 / 朝井リョウ

⭐️⭐️⭐️ 「桐島、部活やめるってよ」「死にがいを求めて生きているの」を読んで俄然朝井リョウに興味が湧いた。そこでまずはこの作品。 就職活動を目前に控えた拓人は、同居人・光太郎の引退ライブに足を運んだ。光太郎と別れた瑞月も来ると知っていたから―。…

もののふの国 / 天野純希

⭐️⭐️⭐️⭐️ 螺旋プロジェクト第三回発刊は新進歴史小説家天野純希の「もののふの国」。前2作の短期間に絞った設定から打って変わり、平安時代の平将門の乱から、明治初期の西南戦争まで、1000年近くの長きに渡った武士(もののふ)の時代を総括した壮大な物語…

うそうそ / 畠中恵

⭐️⭐️⭐️⭐️ しゃばけシリーズ第五作はシリーズ化後初となる待望の長編。一言、ページをめくる手が止まらない素晴らしい出来映え、大満足の一冊。 若だんな、生まれて初めて旅に出る!相変わらずひ弱で、怪我まで負った若だんなを、両親は箱根へ湯治にやることに…

シーソーモンスター / 伊坂幸太郎

⭐️⭐️⭐️⭐️ 螺旋プロジェクト第二回配本は言い出しっぺの伊坂幸太郎。 我が家の嫁姑の争いは、米ソ冷戦よりも恐ろしい。バブルに浮かれる昭和の日本。一見、どこにでもある平凡な家庭の北山家だったが、ある日、嫁は姑の過去に大きな疑念を抱くようになり…。(…

おまけのこ / 畠中恵

⭐️⭐️⭐️ 畠中恵のしゃばけシリーズも第四巻。前作でそろそろ本格長編も読みたいと書いたが、残念ながら今回も短編集で5編おさめられている。残念ながらとは言ったが、畠中さん、手を替え品を替え楽しませてくれるので満足感は高い。 一人が寂しくて泣きます…

死にがいを求めて生きているの / 朝井リョウ

⭐️⭐️⭐️⭐️ 先日「桐島、部活やめるってよ」をレビューした朝井リョウの新作。と言っても、格別これに興味があったわけではなく、私の大好きな伊坂幸太郎の新作「シーソーモンスター」を読もうと思ったら、それが螺旋プロジェクトの一環で、単独でも読めるけれ…

ぬしさまへ / 畠中恵

⭐️⭐️⭐️ 「しゃばけ」が好評で書かれた続編、しゃばけシリーズ第二巻。短編集だが、粒そろいの人情噺が並んでおり、結構ホロリとさせられた。「しゃばけ」では全くネタバレさせないように気をつけたが、この巻以降はある程度のネタバレをお許しいただきたい。…

ねこのばば / 畠中恵

⭐️⭐️⭐️ しゃばけシリーズ、第三巻。ますます好調ではあるが、二冊連続して短編集、しかも同工異曲的になってきており、だいたい展開が読めるようになってきた。次あたり、そろそろ本格長編も読みたいところ。 お江戸長崎屋の離れでは、若だんな一太郎が昼ご…

猫のまぼろし、猫のまどわし / 東雅夫編

⭐️⭐️⭐️ 東京創元社文庫創刊60周年祝企画のリストに「猫のまぼろし、猫のまどわし」という面白そうな本があったのでリンク先を覗いてみた。単独作品ではなく、アンソロジストの東雅夫氏の手になる、猫にまつわる東西の怪奇譚を集めたアンソロジー集だった。…

しゃばけ / 畠中恵

⭐️⭐️⭐️ 「つくもがみ貸します」に次いで、いよいよ長大なシリーズの起点となった「しゃばけ」を読んでみた。 江戸有数の薬種問屋の一粒種・一太郎は、めっぽう体が弱く外出もままならない。ところが目を盗んで出かけた夜に人殺しを目撃。以来、猟奇的殺人事…

星間商事株式会社社史編纂室 / 三浦しおん

⭐️⭐️⭐️ これもまたブックオフでの拾いもの。いかにも「舟を編む」の二番煎じっぽいのだが、まあちょうど軽い読み物が欲しかったところだったので買ってみた。 川田幸代29歳は社史編纂室勤務。姿が見えない幽霊部長、遅刻常習犯の本間課長、ダイナマイトボデ…

事件 / 大岡昇平

⭐️⭐️⭐️⭐️ 「本が好き!」だ開催中の東京創元社文庫創刊60周年祝企画のブックリストを見て懐かしい作品をみつけた。大岡昇平の「事件」である。大岡昇平といえば、「野火」「俘虜記」「レイテ戦記」などの太平洋戦争ものがすぐに思い浮かぶが、この「事件」…

鎌倉散策

初の鎌倉散策。 江ノ電初乗り。 鎌倉文学館。旧前田侯爵邸で三島由紀夫の「豊穣の海」第一作「春の海」に出てくる終南別業のモデルとなったところ。その豊穣の海展が催されていた。「天人五衰」の最終稿にはジンと来た。 バラ園も見頃で、庭ではクラシックの…

飛ぶ孔雀 / 山尾悠子

⭐️⭐️⭐️⭐️ 追いかけてきた山尾悠子の最新刊に辿り着いた。昨年発刊され、第69回芸術選奨文部科学大臣賞、第39回日本SF大賞受賞、第46回泉鏡花文学賞の「三冠」を達成した「飛ぶ孔雀」。大化けしたとか世評は高い。 伝説の幻想作家、8年ぶりとなる連作長編小説…