Count No Count

続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

サロメ / 原田マハ

⭐️⭐️  原田マハのアート小説シリーズ。オスカー・ワイルドの「サロメ」の挿絵画家オーブリー・ビアズリーと、その姉メイベルが今回の主人公。今回も現代パートと過去パートがあるが、現代パートはほとんど機能していない。文章も相変わらずの修辞の仰々しさがめだつマハさん独特の手癖がうわっ滑りしている印象が強い。主題が魅力的でかつ殆どの登場人物が実在するだけに、どうせ書くならもっと深くて読み応えのある物語を書いてほしかったなと思う。

 

泣き虫弱虫諸葛孔明 第3部 / 酒見賢一

⭐️⭐️⭐️

  酒見賢一三国志講談第三部。いよいよ赤壁の戦いへと突入。今回の表主役は呉のスーパースター美周郎こと周瑜公瑾。呉の期待を一身に背負って赤壁の戦いに勝利し、なお戦闘意欲は衰えず劉備孔明を亡き者にしようとするも病に斃れる。裏主役は敗残の劉備組と呉の同盟に成功し呉と魏を争わせちゃっかり荊州南部を手に入れるスペル・マエストロ諸葛亮孔明孔明の嫌う関羽以外の面々の活躍の場所もきっちり用意し、劉備孫権の妹の結婚の段は抱腹絶倒。

泣き虫弱虫諸葛孔明 第2部 / 酒見賢一

⭐️⭐️⭐️

酒見賢一三国志の第二巻。「あることないことないこと」の三国志の中でもとりわけ怪しい「長坂坡の戦い」がメインの第二巻。これを語るのはいかな酒見と言えど難しい。そこで三国志の「裏設定」である「説三方」を冒頭で紹介した上で、嘘八百と分かりつつも、孔明の怪しげな奇策の数々、殺戮マシン張飛、それに負けない英傑趙雲のすざまじい殺戮を描くあたりはさすがの筆力。

 

 

泣き虫弱虫諸葛孔明 第1部 / 酒見賢一

⭐️⭐️⭐️⭐️

    酒見賢一の「陋巷に在り」に次ぐ長編。前作の雰囲気と異なり、変人酒見の面を強く押し出した、はっちゃけたシニカルで笑える三国志となっている。まずは三顧の礼マーベラス・クレバー・ワン、スリーピング・ドラゴン、ミステリアス・サノバビッチ、グレート・ファッキン・ボーイ、後のスペル・マエストロ・コン・ミンの登場だぜい!

ピュタゴラスの旅 / 酒見賢一

⭐️⭐️

    中島敦賞受賞作の初期短編集。作者自身は「バランスを取り過ぎている」と思っておられるが、「そうか~?」という雑多な短編の寄せ集めで出来不出来はあり。話としては「虐待者たち」が一番面白く、歴史ものとしては表題作より「エピクテトス」の方が充実している。

語り手の事情 / 酒見賢一

⭐️⭐️  これも酒見賢一の未読の落穂ひろい。英国ヴィクトリア朝のある屋敷を舞台とした妄想と倒錯の性の饗宴。作者が父親にかんかんに怒られたという異色作だが、あとがきがさらに凄い。酒見賢一に性的タブーはない!

童貞 / 酒見賢一

⭐️⭐️

    酒見賢一の中国史ものではあるのだが、異色の作品。太古の黄河の氾濫に悩まされるある邑は完全な母系社会で女尊男卑の世界。いきなり治水を成し得なかった男の酷たらしい処刑で始まり、それを見ていたある少年が成長とともにこの邑のしきたりを拒否し、村の女を拒否し、女性である黄河を犯し、支配しようと旅を始める。最後にこれは夏の禹の物語であることが示唆されるが、酒見氏はそんなことはどうでも良いことと嘯く。解説の激越さにも驚く。

木漏れ日に泳ぐ魚 / 恩田陸

⭐️⭐️

    大風呂敷広げっぱなし、エンディング投げっぱなしジャーマンの恩田陸にしては珍しく、あっさりと破綻もなく語り終える物語。明日同居を解消する男女が夜を徹して語りあう二人の複雑な家庭事情と互いの思い、そしてそれにまつわるある変死事件。交互に綴られていく二人の心理の変化・綾は興味深いが、今ひとつ現実感がない。

美しい星 / 三島由紀夫

⭐️⭐️⭐️⭐️

  三島由紀夫が冷戦時代に書いた異色SF。UFOを見た家族が自分たちが宇宙人だと信じ込み人類啓蒙救済を目指すが、一方同じくUFOを見た仙台の助教授たち三人も宇宙人であることを悟るが逆に人類は滅亡すべきだと考える。両者を仲介する右翼半日教組政治家(中曽根康弘がモデル)が偶然仲介する形になり、両者の「大審問官」を思わせる論戦が始まる。そこがハイライトではあるが、前~中盤のライトなユーモア、UFOなどのサブカルチャーに興味があった三島の一面、やはり他を圧倒する美文、このあたりも読みどころ。