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続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

氷山の南 / 池澤夏樹

⭐️⭐️⭐️⭐️

    2009-2010年に新聞連載された池澤夏樹の長編小説。南極の流氷をオーストラリアに曳航して灌漑水に利用とする壮大な計画、その船に密航したアイヌと和人のハーフの青年の成長譚、その船の多彩な国籍、宗教を持つ人々が活写され、前半は清々しい雰囲気に満ちている。後半にはアイシストという穏健な教団の反対行動や、アポリジニの友人との交流から波乱の展開が待つ。全体としてとても緻密に構成された教養小説となっている。

ぐるぐる問答:森見登美彦氏対談集 / 森見登美彦

⭐️⭐️⭐️

    先日森見登美彦氏と萩尾望都様の対談を聴く機会に恵まれたが、予想通り、その作品のハチャメチャさに反してとても真面目な方だった。だから対談もそれほど得意ではない感じだったが、なんと14名との対談と自身の今昔問答が収載されている。やはり親友でライバルである万城目学氏とのやりとりが面白い。

ピアリス / 萩尾望都

⭐️⭐️⭐️

    萩尾望都SF原画展をきっかけに初書籍化された、未完の小説。1994年当時多忙を極めていた萩尾望都が文章だけなら書けるが自信はないとのことで「木下司」名義でイラストを萩尾望都担当という事にして角川書店の「The Sneaker Special」という雑誌に4回連載された。雑誌が廃刊になったため未完に終わっており、今後も執筆の予定はないとのこと。ある星の未来視のできる弟と過去視のできる姉の双子が戦争でその星を脱出し離れ離れの星で過酷な運命に晒され乍ら再会を願う物語。ファン限定ではあるが、イラストも満載でお勧め。

君の膵臓をたべたい / 住野よる

⭐️なし

    今年読んだ中で最低最悪。周りの読め読め攻撃に負けて読んだのだが、小説の全ての要素において薄っぺらさが尋常ではない。私の専門分野については開いた口が塞がらない酷さ。これがベストセラーで映画化もされるなんて、笑える。

 

秋期限定栗きんとん事件 / 米澤穂信

⭐️⭐️⭐️ 米澤穂信の「小市民」シリーズ、秋期はなんと高2から高3の秋まで続く、連続放火事件の一年。上巻で焦らせて下巻前半でミスリードさせて中盤でみんな怪しいと思わせて後半で一つ一つ潰していく。潰して作るのが栗きんとん、最後に無事登場。雑魚に復讐する狼はやっぱ怖い。もう8年経つが冬期はまだ出ていない

夏季限定トロピカルパフェ事件 / 米澤穂信

⭐️⭐️⭐️

「小山内スイーツセレクション・夏」、依存関係でなく互恵関係という微妙な小鳩と小山内の夏が始まる。当然「甘~い」で済むわけもなく「小市民」対「薬物乱用グループ」のどす黒い夏、さすが米澤、ラノベも暗い。「古典部」の一年がゆるゆると進むのに反し、こちらは一足飛びに高2の夏だ。小山内ゆきは「春期限定いちごタルト事件」でもわかっていたが、「古典部」のヒロイン千反田えるのようなお嬢様ではない。元「狼」だ。似ているのは背が低いことだけだ。これは米澤の好みか?とにかく事件はめでたく解決、で終わるはずもないから米澤ファンの期待は裏切らない。

春期限定いちごタルト事件 /  米澤穂信

⭐️⭐️⭐️

  米澤穂信ラノベで「古典部」シリーズと両輪をなす「小市民」シリーズ第一弾。小鳩と小山内の新高1コンビは昔は「狐と狼」だったらしいのだが、ある事件を境に改心し、嘉門達郎ではないが小市民として、目立たずおとなしく生きていこうと決心している。が、お約束通りなぜか事件に巻き込まれる、という連作短編集。米澤穂信らしく、ライトな感じと本格ミステリが程よくブレンドされている。

インシテミル / 米澤穂信

⭐️

  米澤穂信のミステリに関する知識を総動員したクローズドサークル内の12人の殺人ゲーム。実験的作品で出世作で映画にもなったが、やっぱり無意味な殺人劇は性に合わない。

もののあはれ / ケン・リュウ

⭐️⭐️⭐️⭐️

    文庫化にあたり二つに分けられた第2短編傑作集。やっとケン・リュウのSFを堪能できた。でもテッド・チャングレッグ・イーガンの影響受けすぎ。これからどれだけオリジナリティを出していけるかだなぁ。そういう意味ではチャイニーズ・スチームパンクの「良い狩を」がとても良かったので、このような作品も続けてほしい。

紙の動物園 / ケン・リュウ

⭐️⭐️

    アメリカの若手SF作家ケン・リュウの短編傑作集。元々日本独自で編集された同名本が大好評で文庫化にあたり二分割された。こちらはファンタジーが主体。トリプルクラウンの表題作はそれほどでもなかったが、文字占い師(The Literomancer)は題名にも内容にも唸らされた。SF作家というよりはポリティカル・フィクション・ライターだと思う。