Count No Count

続 ゆうけいの月夜のラプソディ 的な

ポーの一族 春の夢 / 萩尾望都

⭐︎⭐︎⭐︎

  萩尾望都先生、40年ぶりの「ポーの一族」の新刊。昨年から月刊Flowersに連載された新エピソードが完結した。ご自身が述べられているように絵も顔も変わったが、とにもかくにも新しい物語が読めるのは嬉しい限りだ。

シャーロック・ホームズ対伊藤博文 / 松岡圭祐

⭐︎⭐︎⭐︎

  ラノベの職人松岡圭祐講談社文庫への単行本書下ろし。ホームズがモリアーティ教授と滝壺に落ちたころ、日本では大津事件が起こっていたという着眼点が面白い。一方伊藤博文が渡英していたころホームズは10歳くらいだったというところを利用したのもうまい。ただ、対決ではなく、両者協力してロシアの陰謀を暴いて解決していく物語である。

村田エフェンディ滞土録 / 梨木香歩

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

梨木香歩の「家守綺譚」の兄弟作品。文士綿貫征四郎の友人村田エフェンディ(先生)が主人公、舞台は土耳古、英国人女性の下宿で起こる色々な騒動と下宿人たちとの交流。そして最後にやってくる痛切な哀しみに胸打たれる物語。

 

音楽と私 / 原田知世 (通常盤CD)

⭐︎⭐︎⭐︎

  私の大好きな原田知世さんのベスト盤。選曲や知世さんの歌唱には文句なし。ただ、この頃はもう最近ずっとこの人だな。ボサノバ・ギタリストの伊藤ゴローさん。彼がやっぱり全面的にアレンジしてる。「時をかける少女」はちょっと大仰なアレンジで、「Music & Me」の時のゴローさんのギター一本での歌唱の方がずっと良かった。通常盤が3120円ってのも高すぎ。差別化の意味がない。

 

ディアスポラ / グレッグ・イーガン

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

ハードSFの旗手グレッグ・イーガンの代表作の一つ、文学としてのSFを終わらせるような「史上最も難解なSF」(1997年当時)。宇宙における人類の存在意義や宇宙自体の意味を問うた小説は数あれど、ここまでの理論的高みに達した作品はまずないだろう。

春になったら苺を摘みに / 梨木香歩

⭐︎⭐︎⭐︎

梨木香歩さんの下宿の女主人ウェスト夫人の思い出に心打たれるエッセイ集。まるで「西の魔女」の英国での生活を読むような心持がする。表紙の素敵な写真は星野道夫氏の手になるもの。

家守綺譚 / 梨木香歩

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

  琵琶湖疎水に近い旧家を預かることになった綿貫征四郎なる駆け出し小説家の書く物語なのだが、サルスベリに懸想されるわ、掛け軸からこの家の息子で同級生で琵琶湖に沈んだはずの高堂がしょっちゅう出てきて平然と話をするわ、河童は出るわ人魚は出るわ、白木蓮の蕾が開いたら白竜の子が天に昇るわ、に騙されそうになって飼い犬のゴローに助けてもらうわ、竜田姫竹生島浅井姫に挨拶に来るわ、啓蟄の候に小鬼フキノトウを取りに来るわ、全く人を喰った話ばかりである。

  しかし四季折々の草花を題名にした二十八の物語はどれも味わい深く、そしてその文章の美しいこと美しい事。夏目漱石の「夢十夜」が好きな人にはたまらない。梨木香歩の才能全開である。

アノニム / 原田マハ

⭐︎⭐︎

原田マハ版ミッション・インポッシブル、アメリカ現代アートだからハリウッド的ポップさでいいのかもしれないが、ジャクソン・ポロックへの入れ込みように比べれば軽い軽い

すばらしい新世界 / 池澤夏樹

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

  風力発電機をチベットの秘境に設置に行く企業人と現地の人や自然や宗教との触れ合いが清々しさを感じさせるとともに、オルダス・ハクスリーの同名ディスユートピア小説に挑戦するかのように、20世紀末の彼の持てる全ての世界観を平易な物語の中に集約した見事な作品。彼の原子力発電への不安は11年後に現実のものとなる。